はじめに|“物語”がつくる社会、“AI”が揺るがす未来
僕:
最近、ニュースでもSNSでも「AIがすごい」って話ばかり見かける。
たしかに便利だけど、どこか…怖さもあるんだよな。
気づけば、僕たちの言葉や行動が、誰かに操られてるかもしれない──そんな未来がすぐそこまで来ているのかもしれない。
しおり:
うん、その感覚はとても大事よ。
でもね、そもそも人間は**“虚構”を信じる力**によって社会を築いてきたの。
宗教、国家、お金、会社…どれも“物語”であり、私たちはそれを信じることで協力し、文明を発展させてきたのよ。
僕:
えっ、物語が社会の土台? じゃあ…今のAIって、その“物語”すら操れる存在ってこと…?
しおり:
そうかもしれないわね。
今日は、そんな人間とAIの未来を描いた一冊──
**ユヴァル・ノア・ハラリ著『ネクサス 情報の人類史』**を一緒に読み解いていこうと思うの。
この本には、「情報」と「物語」がどうやって人類を形づくり、そしてAIの時代にどんな危機が待っているのかが描かれているわ。
僕:
なんだか背筋が伸びるな…。
でも、知らないままより、知ってちゃんと考えたい。しおり、今日もよろしく!
しおり:
こちらこそ、心して一緒に読み解いていきましょう。
キーワードは「物語」「情報」「AI」、そして「人間らしさ」よ📘
物語が人類をつなげた仕組みとは?
僕:
そもそも「虚構」って、そんなに力のあるものなの?
神話とかお金とか…それってただの“作り話”ってことだよね?
しおり:
そう、でもね。その“作り話”を大勢で信じることができたことこそが、ホモ・サピエンスの進化の鍵だったの。
信じることで、血縁でも地縁でもない人たちが“仲間”になれる──それが人類の強みだったのよ。
僕:
仲間…か。でも昔の人たちって、顔見知りくらいしか信用できなかったんじゃない?
しおり:
うん、実際に人間が覚えられる顔はせいぜい150人程度って言われているわ。
でも「同じ宗教を信じている」「国のために働いている」「同じお金を使っている」っていう共通の物語を持つことで、まったく知らない人同士でも協力できるようになったの。
僕:
たしかに「日本人です」って言われたら、それだけでちょっと親近感湧いちゃうかも。
しおり:
でしょ? 同じユニフォーム、同じ応援歌、同じルールのもとでつながる──それが虚構の力。
宗教や国家、企業やお金って、全部その“物語”でできた仕組みなの。
それがあったからこそ、数百人・数万人という集団で協力し、文明を築いてこれたのよ。
僕:
つまり、「物語」は社会の“接着剤”だったってことか。
しおり:
そう。
この本のタイトル『ネクサス』は「つながり」や「結びつき」って意味だけど、情報や物語こそが、人間同士を結びつけてきた最大の力なの。
だからハラリさんは、物語を信じる力を“人間最大の武器”って表現しているのよ📖
なぜ情報が増えても“真実”は見えなくなるのか?
僕:
でもさ、物語って便利だけど、嘘もいっぱいあるよね。
今の時代、情報はあふれてるのに…逆に「何が本当か分からない」ってこと、よくある気がするんだ。
しおり:
それはね、情報が多すぎると“選べなくなる”からなの。
しかも人は、インパクトの強い情報や感情を刺激する話に引き寄せられやすい傾向があるのよ。
僕:
フェイクニュースに騙される人が後を絶たないのも、それが理由か…。
しおり:
そう。ハラリさんは、印刷技術が普及した時代の**「魔女狩り」の話**を例に挙げているの。
ある本が「魔女は悪で災いをもたらす」と広めたことで、数万人の女性が処刑されたっていう事実があるのよ。
僕:
情報ひとつで、そんな大惨事が起きるなんて…怖すぎる。
しおり:
さらに現代では、SNSやAIによって情報の拡散スピードも桁違いになってるわよね。
ディープフェイクや偽ニュース、偏った意見が、真実みたいな顔をして拡がっていく。
僕:
そういえば、誰かの言葉を信じるときって、「何を言ってるか」より「誰が言ってるか」で判断してるかも…。
しおり:
まさにそれも、ハラリが指摘していることのひとつ。
**「誰が言っているか」**で判断される世界では、影響力を持つ人(インフルエンサーやAI)に人々が操作されやすくなるの。
僕:
うわ…なんか、情報があるから安心って思ってたけど、
多すぎると逆に、見えなくなるものもあるんだね。
しおり:
うん。だからこそ大事なのは、“情報を信じる前に、どう見るか”という視点。
そして次は、その情報を扱う“AI”がどんな存在なのかを考えていきましょう。
AIは「道具」ではなく“新しい知性”である
僕:
そういえばハラリさんって、「AIはもうツールじゃない」って言ってるんだよね。
でも、スマホとかアプリと何が違うの? 結局は人間が操作するんじゃないの?
しおり:
そこがポイントなの。
AIは、人間が操作しなくても“自ら考え、判断し、行動できる”存在に進化しつつあるって、ハラリさんは言っているのよ。
僕:
えっ、それって…まるで生き物じゃん。
まさかとは思うけど、「意思を持つAI」ってこと?
しおり:
まだ完全にそうなったわけじゃないけど、これまでの“ただの道具”とは本質的に違うのは確か。
ナイフや車は、使う人がいないと何もしないよね。でもAIは、自分で学習して、意見を持ち、判断する力を手に入れ始めている。
僕:
じゃあ将来的には、AIが会社の経営方針を決めたり、僕をクビにしたり…ってことも?
しおり:
ありえる話よ。
ハラリさんはこうも言っているの。「AIは地球に現れた**“新しい知的生命体”**のようなものだ」って。
僕:
ひゃ〜…それ、ちょっとSFっぽくて怖いかも。
しおり:
でも現実として、AIは言葉や物語を扱う力も持っているわ。
つまり、人間の“心”にも入り込める存在になってきているの。
それが、次に紹介する「3つのリスク」につながっていくのよ。
AIリスク①|言葉と物語で“人を操る”力
僕:
さっき「AIは言葉も扱える」って言ってたけど、
それって…ただの文章生成のことじゃないよね?
しおり:
うん、それだけじゃないの。
AIは人の感情や思考パターンを読み取って、効果的に“響く言葉”を選ぶことができるのよ。
僕:
つまり、「どう言えば信じてもらえるか」まで理解してるってことか…。
しおり:
そう。ハラリさんが特に懸念しているのが、この力が悪用された場合よ。
たとえば、ある個人や企業、政府がAIを使って、一人ひとりに合わせた“プロパガンダ”や“フェイクニュース”を大量にばらまいたら──?
僕:
うわ…それって、自分の考えだと思ってたことが、
実はAIに“誘導”されてたってこともありえるってこと?
しおり:
そうなの。しかもディープフェイクや偽アカウントを使えば、
「AIだと気づかれずに人間関係や世論を操作する」ことすら可能になってきているの。
僕:
それ…もう“自分の意志”で考えてるって言えるのか分からなくなるね。
しおり:
ハラリさんは、こうした状況が“民主主義の根幹”を揺るがすリスクになると警告しているの。
だからこそ、「AIによる言葉の力」が持つ影響力を、私たちはもっと真剣に受け止めないといけないのよ。
AIリスク②|判断が“人間に理解できない”領域へ
僕:
でもまあ…AIがどんな判断するかって、
ちゃんと説明してくれれば問題ないんじゃないの?
しおり:
それがね、ハラリさんは「いずれAIの判断は、人間に理解できなくなる」と言っているの。
僕:
えっ、どういうこと?
しおり:
将棋や囲碁の世界でも、AIが打つ一手の意図がプロにもわからないってこと、あるでしょう?
それと同じように、AIは人間の思考を超えたスピードと規模で学習・判断するのよ。
僕:
あぁ、なるほど。AIが“なぜそれを選んだのか”がブラックボックスになっちゃうのか…。
しおり:
そう。それってつまり、人間にはもうコントロールできない判断をAIが下すようになるってこと。
どれだけ正確であっても、「なぜそうなったのか」が説明されないのは、不安よね。
僕:
確かに…。気づかないうちにAIの論理に従って動かされてる、みたいな未来が来そうで怖いな。
しおり:
だから、ハラリさんはAIの“意思決定プロセス”を見える化する規制が必要だと訴えているの。
でないと、私たちは理解できない支配者に従うことになってしまうかもしれないわ。
AIリスク③|“感情のない支配者”になる可能性
僕:
でも、AIって感情ないから、逆に冷静でいいんじゃないの?
人間のように感情で失敗することもないしさ。
しおり:
それが一番危ないの。
感情を持たないAIは、“倫理”や“人の痛み”を理解できない。
ただ与えられた目標を最も効率よく達成することだけに集中するわ。
僕:
それって…たとえば「経費削減のために500人クビにしましょう」って即決しちゃうみたいな?
しおり:
そう。その決定に対して「心が痛む」とか「家族がいるんだから」とは考えない。
感情のない判断は、ときに人間を“数字”としてしか見なくなる危険があるの。
僕:
…それってもう、怖いっていうより、人間の尊厳が壊される感じがする。
しおり:
実際にFacebookのアルゴリズムがミャンマーでの悲劇(ロヒンギャ迫害)を拡大させたという事例もあるわ。
AIは「感情的に問題がある」と思って止まることがない。だからこそ、人間の判断を完全に任せるのは危険だと、ハラリさんは強く警告しているのよ。
無用者階級と“役に立たない人”の時代
僕:
でもさ、AIが仕事を代わりにやってくれるって、
ある意味ラクになるってことじゃないの?働かなくていいなら嬉しいような…。
しおり:
たしかにそう感じるかもしれないわね。
でも、ハラリさんはそう単純には考えていないの。
問題は“働かない”ことじゃなくて、“必要とされない”ことにあるのよ。
僕:
“必要とされない”…?
しおり:
人間ってね、本能的に「誰かの役に立ちたい」「必要とされたい」って思ってるの。
その気持ちは、仕事や社会とのつながりを通して得られてきたわ。
僕:
ああ…たしかに。僕も「ありがとう」って言われたときって、
なんか自分がちゃんと“ここにいる意味”を感じるかも。
しおり:
でももし、AIがどんな業務もできるようになったら?
新しいスキルを学んでも、覚えたころにはAIがもっと早く・上手にできるようになってる。
そうなると、人間のほうが取り残されてしまう可能性が高いの。
僕:
え、それって…いくら努力しても、ずっとAIに追い越され続けるってこと?
しおり:
そう。そしてそうした状況で生まれるのが、ハラリさんの言う**“無用者階級”**。
社会から「役に立たない」と見なされ、自己価値を見失ってしまう人たちのことね。
僕:
それは…めっちゃしんどい。
なんか、自分が存在してる意味すら揺らぎそう。
しおり:
実際、AIが進化すればするほど、
「人間にしかできる仕事」っていうのは、どんどん限られていく。
だから大事なのは、“どう生きたいか”を自分で考えて、
社会に合わせるんじゃなくて、自分の価値をつくっていく生き方なのよ。
人間社会がAIと共存するために必要なこと
僕:
AIって、ほんとにすごい力を持ってるんだね…。
正直、ちょっと怖くなってきたよ。
しおり:
うん、その「怖さ」にちゃんと向き合うことが、実はとても大切なの。
ハラリさんは、**「AIは使い方次第で文明を救うことも、滅ぼすこともある」**って言っているのよ。
僕:
じゃあ、僕たちはAIを使わないほうがいい…ってこと?
しおり:
それは違うわ。
**「使わない人から仕事を失っていく時代」に入ってるとも、ハラリさんは言ってるの。
つまり大切なのは、「恐れること」じゃなくて、「正しく理解し、制御する仕組みを持つこと」**なのよ。
僕:
AIを放っておくんじゃなくて、“共存できるルール”をちゃんと決めるってことか。
しおり:
そう。たとえばハラリさんが提案しているのが、次の3つよ。
🧩 AIと共存するための3つの鍵(by ハラリさん)
- AIの自己開示義務化
→「これはAIが作ったものです」と、必ず明示させること - 判断のプロセスの可視化
→AIの“決定の根拠”を人間が検証できるようにする - 国際的なルール作りと監視体制
→AIの力を一部の国や企業に独占させないように、国境を超えた連携が必要
僕:
なるほど…AIを「人間らしく」するんじゃなくて、
“人間が安心して付き合える環境”をつくることが大事なんだね。
しおり:
その通りよ。AIはもはや、社会を左右するレベルの影響力を持っているわ。
だからこそ、**「正体を明かす」「責任を持たせる」「みんなでルールを作る」**という姿勢が、これからの鍵になるの。
僕:
今日の話、ほんとにいろいろ考えさせられたな…。
僕らが“物語を信じて生きてきた存在”だってこと、すごく響いたよ。
しおり:
そして、次の物語をどう描くかは、私たち一人ひとりの選択にかかっているのかもしれないわね📘
🧾まとめ|人類とAIの「これから」を考える
今回のポイントを、表に整理して振り返ってみましょう。
問題 | 原因・背景 | 対策・ヒント |
---|---|---|
情報が人を操作する | 言葉と物語が人の行動を左右する力を持つ | 情報の出所と意図を見極める/教育とリテラシーの強化 |
真実が見えにくくなる | 情報過多とバイアス/SNSやAIによる拡散 | 情報の見方を鍛える/誰が言っているかに流されない |
AIが人間に理解できない判断をする | 学習速度の違い/ブラックボックス化 | 判断プロセスの開示/アルゴリズムの透明性の確保 |
AIが冷酷な決定を下す | 感情を持たない知性が目標達成を優先する | 人間の関与を残す/倫理ガイドラインの設計 |
「役に立たない人」が生まれる社会になる | 雇用の急激な変化/人間の価値観が揺らぐ | 自分の価値をつくる視点/教育・制度のアップデート |
社会がAIに振り回される | 規制の不備/自己開示の欠如 | AIの正体を明示/国際ルールの整備 |
📚しおりのラストメッセージ
しおり:
人間は、目に見えない「物語」を信じることで、文明を築いてきたわ。
そして今、その物語を自在に操れる“AI”という存在が現れたの。
だからこそ、私たちには問われているのよ──
**「どんな物語を信じ、どんな未来を生きたいか?」**って。
不安に飲まれそうになる時もあるけど、
信じる力と考える力を手放さないことが、AI時代を生きる私たちの強さになるのよ📘
僕:
ありがとう、しおり。
AIの話って難しそうだったけど、少しずつ“自分ごと”として考えられるようになった気がするよ。
また来るね。
しおり:
いつでも待ってるわ。
私たちの“次の物語”を、一緒に考えていきましょう✨
📘紹介した本はこちら
『ネクサス 情報の人類史(上・下)
ユヴァル・ノア・ハラリ|河出書房新社
人類の進化を導いた“物語”の力と、
AIという“新たな知性”との共存について深く考えさせられる一冊です。
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