ズルしない仕組みが、最強の戦略だった|しおりと学ぶ“性弱説”という考え方

仕事・働き方

はじめに|「人は弱い」からこそ、生きやすくなる仕組みが必要なんだ

僕:
最近、「人って放っておくとズルする生き物だよな…」って、つい思っちゃうことがあってさ。

しおり:
あら、どうしたの?いきなり悟りをひらいたみたいな口ぶりね。

僕:
いや、職場でね。みんな“ちゃんとしてる風”に見えるけど、実際は報告サボったり、面倒な仕事をうまく避けたり…。
でも正直、それを責められない自分もいるというか…。

しおり:
それ、すごく大切な気づきだと思うな。
実はその“人の弱さ”を出発点にして、仕組みで成果を出す会社があるの。
それが、**平均年収2000万円超・営業利益率50%を誇る「キーエンス」**よ。

僕:
そんなすごい会社が、“人の弱さ”前提って、なんか矛盾してない?

しおり:
ううん。逆にね、「人は弱いから、努力や根性に頼らない」っていうのがキーエンスのすごさ。
今日紹介するのは、高杉康成さんの著書、
『キーエンス式 性弱説経営』
ここには、“ズルしない仕組み”がいかに最強の戦略かが、びっくりするほど合理的に詰まっているの。

僕:
ズルしない仕組み、か…。
たしかに、それがあれば真面目な人が報われるかもな。

しおり:
そう。「弱いから仕方ない」で終わらせず、「弱いからこそ支える」
この視点を持てると、働き方も人間関係もガラッと変わるかもしれないわ。


1|性弱説ってどんな考え方?|「人は弱い」が前提の経営哲学

僕:
「性弱説」って、初めて聞いたときちょっとギョッとしたよ。
なんか、人を見下してる感じなのかなって…。

しおり:
そう思う人も多いけど、実はその逆なの。
性弱説は、「人は本質的に弱い存在」っていう前提から出発する考え方で、決して人を責めるものじゃないのよ。

僕:
弱い存在…たとえばどんな?

しおり:
たとえば、「今日は疲れてるから後回し」「まぁ明日でいいか」って、ついサボったり、忘れたり、楽な方に流されたり。
意志が弱いとかじゃなくて、人間ってそういうもんだよねって認めたうえで、
「じゃあ、どうすればちゃんと動けるかな?」って考えるのが性弱説的な視点なの。

僕:
なるほど。“弱さを責める”んじゃなくて、“弱さを前提に仕組みを作る”ってことか。

しおり:
そうなの。これって、いわゆる「性善説」や「性悪説」との違いがはっきりしてるのよ。

考え方特徴弱点
性善説人は本来善。きっと頑張れる!ミスや怠慢に失望しやすい
性悪説人は放っておくとズルする疑いすぎて信頼関係が崩れる
性弱説人は弱い。だから仕組みで支える人に任せきりにしない姿勢が必要

僕:
ああ、たしかに…。
なんでも“ちゃんとやれよ”って期待されるとプレッシャーだし、逆に“どうせお前はダメだ”って言われてもやる気なくなるもんな。

しおり:
そう。性弱説は、**どちらでもなく「弱さを前提に、動ける環境をつくる」**という姿勢なの。
それって、実はとても“人間に優しい”考え方だと思わない?

僕:
たしかに…。僕みたいなズボラ人間には、ちょっと救われる考え方かも。


2|ズルできない仕組みとは?|ニーズカードと“ハッピーコール”の威力

僕:
「性弱説」って考え方はわかったけど、実際にどうやって“弱さ”をカバーしてるの?

しおり:
いい質問ね。
キーエンスがすごいのは、“ズルしない仕組み”を徹底的に作ってるところなの。
たとえば「ニーズカード」っていう制度があるのよ。

僕:
ニーズカード?営業日報とは違うの?

しおり:
似てるけど目的が違うの。
これは、お客様の「困りごと」や「こういう商品が欲しい」って声を集めるためのカードで、営業が毎日お客様からヒアリングして提出するの。

僕:
え、毎日?でも正直サボりたくなる日もあるでしょ…。

しおり:
そこが性弱説の出番なのよ。
キーエンスでは「ニーズカードを出さないと人事評価が下がる」、逆に「良いニーズを拾えば報酬が出る」っていうごまかせない仕組みがあるの。

僕:
うわ、そりゃ出さざるを得ないな…。

しおり:
でもこれって、意志や努力に頼らず、“弱さごと成果に変える”仕掛けになってるのよ。
誰かがズルしたら、真面目な人が損をする──そんな構造を許さないから、みんな安心して頑張れる。

僕:
…たしかに。
“ズルした方が得”って職場、めっちゃやる気なくなるし。

しおり:
そしてもう一つ強力なのが「ハッピーコール」よ。

僕:
…名前だけ聞くと、全然ハッピーじゃなさそう。

しおり:
ふふ、確かにね。
これは上司が、部下が訪問したお客さんに直接電話して「提案内容は問題なかったか」を確認する制度なの。
つまり、営業日報に嘘が書けない。

僕:
うわ…怖っ。でも、サボれない。絶対に。

しおり:
そう。「正直者が報われる仕組み」って、厳しく聞こえるけど、すごく健全な環境でもあるのよ。
だって、真面目に頑張った人がちゃんと認められるんだもの。

僕:
…たしかに。ズルしても得しない職場、なんかいいかもって思えてきた。


3|本音は見えづらい|顧客の“気づいていない悩み”を読み取る力

僕:
でもさ、お客さんの声を集めるって言っても…
「〇〇が欲しい」って言われたら、それを作ればいいだけじゃないの?

しおり:
それがね、キーエンスでは“お客さんの言葉を鵜呑みにしない”のが大原則なの。

僕:
えっ、それじゃあニーズ無視してるってこと?

しおり:
違うの。
たとえば、「もっと速い機械が欲しい」って言われたとき。
普通は「じゃあ高速モデルを作りますね」ってなるでしょ?

僕:
まあ、普通そうだよね。

しおり:
でもキーエンスでは、「なぜ速さが必要なのか?」って**“その背景の悩み”を深掘り**するの。
たとえば、納期がきついのか、不良品が多いのか、工程にムダがあるのか…。

僕:
つまり、「速くしたい」の奥に、本当の課題が隠れてるってことか。

しおり:
そう。
そしてそれって、お客さん自身も気づいていないことが多いのよ。

僕:
なんか…恋愛と似てるな。
「優しい人が好き」って言うけど、実は「安心感」が欲しいだけ、みたいな。

しおり:
例えが絶妙すぎる(笑)
だからこそ、「声を聞く」の先に「本当の課題を探る力」が求められるのよ。
ジョブズも言ってたでしょ?

「人は見せられるまで、自分が何を求めているのか分からない。」

僕:
なるほど…。
つまり、性弱説って「人間は自分の本音にも鈍感」ってところまで見越してるのか。

しおり:
うん。そしてそれを前提に、
相手の言葉を“ヒント”にして、必要なことを提案する力こそが真の価値提供だって、キーエンスは教えてくれてるの。

僕:
深いな…。
たしかに“要望通り作ったのに売れない”って、ありがちだもんな。

しおり:
だから、「聞く」と「察する」は別スキルってこと。
その違い、案外見落としがちよね。


4|伝えたつもり、聞いたつもりをなくす|上司と部下の認識ズレ対策

僕:
あるある…。
上司が「言ったつもり」、部下は「聞いてないつもり」で、あとから揉めるやつ。

しおり:
まさにそれね。
キーエンスでは、人間は“うっかりミス”や“思い込み”をする生き物だという前提で動いているの。

僕:
たしかに、性善説で「ちゃんとやってくれるだろう」って思いすぎると、痛い目見ることある…。

しおり:
そこで導入されてるのが、**営業と上司の“毎日の事前打ち合わせ”**よ。
たった10〜15分だけど、これがめちゃくちゃ重要なの。

僕:
え、毎日やるの?

しおり:
うん。
「今日のお客さんには、どの商品の何を伝えるか」「どんな質問をしてくる可能性があるか」まで、事前にすり合わせておくの。
さらに、上司が“お客さん役”になって模擬商談をやることもあるんだって。

僕:
うわ…それ、緊張するな。でも確かに…伝え忘れや聞き漏らしは減りそう。

しおり:
そうなの。
認識のズレって、仕事のミスの温床になるからね。
しかも、それを「ちゃんとやってよ!」って怒るだけじゃ、根本解決にならない。

僕:
怒られる側も、「いや、それ聞いてないし」って反発しがちだしなあ。

しおり:
だからこそ、「伝えた」「聞いた」の**“つもり”をなくす仕組み**が必要なの。
性弱説って、“疑う”んじゃなくて、“ズレが起きる前提で準備する”考え方なのよ。

僕:
ああ…その視点、大事かも。
なんとなくの信頼じゃなくて、ちゃんと形にしていくって感じだね。


5|1分単位で自分を見える化|時間の使い方が変わる日報術

僕:
え…1分単位で日報って、さすがにやりすぎじゃない?

しおり:
最初はそう思うよね。でも、これにはちゃんとした理由があるの。
キーエンスでは「人は、見えていないものを管理できない」っていう前提があるのよ。

僕:
たしかに…気づいたら1日終わってて、「何やってたっけ?」ってなることある…。

しおり:
まさにそれ。だからこそ、自分の時間の使い方を1分単位で“見える化”することで、ムダやサボりに気づけるの。
そしてその積み重ねが、社員1人あたり1時間で3万円の付加価値を生む仕組みに繋がっているの。

僕:
え、3万円⁉︎ 1日8時間働いたら24万円って…僕の月給…。

しおり:
(笑)驚くよね。でもそれを実現してるのが、「時間の見える化」なの。
“この1分、自分は何をしてた?”って意識があるだけで、行動が変わるのよ。

僕:
たしかに…。ダラダラSNS見たり、目的もなく資料眺めたりって、めっちゃあるなぁ。

しおり:
あとね、これは日報だけじゃなくて、営業件数や提案数、受注率まですべて数値で管理されてるの。
人の主観や感覚に頼らないって、性弱説の核心でもあるわ。

僕:
“なんとなく頑張った”じゃなくて、“数字で見える”から自分にも嘘がつけないんだ…。

しおり:
うん。つらいように見えるかもしれないけど、自分の成長も可視化できるっていう面では、とても前向きな仕組みなのよ。

僕:
なるほどなぁ…。僕も1日、1分とは言わないけど、せめて「午前は何に使ったか」くらい記録してみようかな。

しおり:
それ、すごくいいと思う。
自分の“使った時間”を意識するだけで、1日がぐっと充実して見えるようになるからね。


6|努力不足で終わらせない|失敗の原因を深掘りする習慣

僕:
「すみません、努力不足でした…」って、つい言っちゃうけど──
実はそれで終わってたらダメなんだよなぁ…。

しおり:
うん。それ、反省してるように見えて、実は“何も変わらない”魔法の言葉なのよ。

僕:
たしかに…。頑張りますって言ったまま、また同じミス繰り返してる気がする。

しおり:
キーエンスでは、「努力不足でした」で済ませることは絶対に許されないの。
なぜなら、人は弱い=同じ失敗を繰り返す生き物っていう前提があるから。

僕:
うわ、ちょっと耳が痛い…。

しおり:
でもね、ただ厳しいだけじゃないの。
たとえば営業で目標未達だったら、「努力が足りなかった」と言った瞬間に、“何の努力が足りなかったのか”を上司が細かく聞いてくるの。

僕:
うわあ、それ…逃げられないやつ…。

しおり:
でもそれが大事なのよ。
たとえば「訪問件数が少なかった」としたら、「なぜ増やせなかったのか?」「どうすれば増やせるのか?」まで考える。
そうやって**“原因→仮説→対策→実行→検証”というPDCAを徹底的に回していく**の。

僕:
なるほど…。反省じゃなくて、“分析”してるんだね。

しおり:
うん。しかも、中間会議でその仮説が正しかったかを振り返って、成果が出なかったらまた原因を再特定する。
ちょっと厳しいけど、その分「具体的にどう改善すればいいか」が見えてくるの。

僕:
ああ…。
僕も「頑張ります」じゃなくて、「次はこう変えてみます」って言える人になりたいな。

しおり:
性弱説って、“努力しろ”って追い詰めるものじゃなくて、どうすれば再発しないかを一緒に考える仕組みでもあるのよ。


7|難しい仕事ほど人の弱さが出る|自分で決めるからこそ頑張れる

僕:
…結局、僕がサボりたくなるのって、難しい仕事のときなんだよなぁ。

しおり:
それ、実はすごく自然なことなのよ。
キーエンスではね、“難しい仕事ほど人の弱さが出やすい”って考えているの。

僕:
たしかに、コピー取るだけなら何も考えずにできるけど、新規提案とかになると一気にハードル上がる…。

しおり:
うん。そういう“難しい仕事”ほど、人はサボる・逃げる・先延ばしにする傾向がある。
だからこそ、性弱説はそこに効いてくるのよ。

僕:
つまり、そういうときこそ仕組みで支えるべきってことか。

しおり:
そう。そしてもう一つ大事なのが、目標は上から与えるんじゃなくて、自分で決めるっていう仕組み。

僕:
えっ、ノルマを自分で?

しおり:
そうなの。
キーエンスでは、たとえば「訪問件数を1日6件に増やす」「ニーズカードを毎日3枚以上集める」みたいな行動目標をいくつか用意して、その中から自分で2つだけ選ぶの。

僕:
なんで選ばせるの?

しおり:
人ってね、“やらされる目標”には本気になれないけど、“自分で決めた目標”には自然と力が入るから。
自分で選ぶことで、責任感も芽生えるし、納得感もあるの。

僕:
ああ…それ、僕も経験ある。
自分で「やる」って決めたことって、なんか続けられるんだよな。

しおり:
でしょ?
だからこそ、人間の弱さに寄り添うには、「選ばせる仕組み」も重要なのよ。

僕:
なんか、性弱説って“厳しそう”って思ってたけど──
実は、すごく「人間らしさ」に寄り添ってる考え方だったんだな。

しおり:
そう。**努力や根性じゃなくて、「弱さごと前提にして、うまく生きる」**ための仕組みづくり。
それが、キーエンス式・性弱説経営の本質なのよ。


まとめ|性弱説経営が教えてくれる“仕組みの力”

課題となる“人の弱さ”キーエンスの仕組み的対策
サボり・怠け・後回しニーズカード制度+インセンティブ(出さないと人事評価に響く)
ごまかし・ズル報告上司による“ハッピーコール”で直接確認
本当のニーズに気づかない顧客の課題を深掘りして提案(言葉をそのまま受け取らない)
認識のズレ・伝え漏れ毎日の上司とのすり合わせ・模擬商談
時間の浪費・サボり1分単位での日報による行動の可視化
曖昧な反省・再発防止できない原因→仮説→実行→検証の徹底したPDCA
“やらされ感”で動けない目標は自分で選ぶことで本気度を高める

ラストメッセージ|“弱さ”は、責めるものじゃなく、支えるもの

僕:
「人は弱い」って聞くと、ちょっとネガティブに感じたけど──
読み終わった今は、不思議とホッとしてる。

しおり:
うん、それが性弱説の本質なの。
“強い人”だけが報われるんじゃなくて、“弱さ”を前提にした仕組みで、誰もが力を発揮できる世界。
それって、すごくやさしいと思わない?

僕:
うん。頑張れないときだってあるし、ミスもする。
でも、そんな自分でも前に進める仕組みがあれば、ちゃんと成長できる気がする。

しおり:
だからこそ、「意志の力」だけに頼らないでいいのよ。
ズルを防ぐのも、モチベーションを支えるのも、仕組みの力。
それが人を育て、組織を強くするって、キーエンスは教えてくれてるの。

僕:
ありがとう、しおり。
弱さを否定せずに、活かす考え方って、すごく前向きだね。
ちょっと、僕も自分の働き方を見直してみるよ。


📘紹介した本はこちら

『キーエンス式 性弱説経営』
高杉康成 著|ダイヤモンド社

「人は弱い」という前提から生まれた、驚くほど実践的で人間的な経営哲学。
頑張れない日もある。だからこそ、仕組みで支え合う。
働き方や組織づくりを考えるすべての人におすすめの一冊です。


コメント

タイトルとURLをコピーしました